プロムナード

 ふと呼ばれた気がして彼は顔を上げた。
 あれ、なんだったっけ。自分は何をしていたのだったか。
 ――そうだ、絵だ。今日は美術館に絵を見に来たのだ、彼と一緒に。滅多に訪れない展覧会などというものの雰囲気にどうやらぼうっとしていたらしい。
 ならば呼んでいるのは彼だろう。水の中を潜るように何処かくぐもった声。プロムナードの向こうに見える部屋の入り口が一瞬、水中に似てゆらめいた気がして彼は瞼を瞬いた。
 再び呼ぶ声がする。ああ、早く行かなくては。彼はその部屋へと足を急がせた。

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